年金制度の概要
1.日本の人口構造の変化と社会保障制度
高齢化
日本の総人口に65歳以上が占める割合(高齢化率)は、昭和45年は7.1%でしたが、平成28年は27.3%と、他の主要国に比べてスピードが極めて速くなっています。
「日本の将来推計人口」の中位推計によると、高齢化率は今後も増加し続け、平成48年には33.6%となり、人口の約3人に1人が高齢者となることが予測されています。
急速な高齢化の要因は、出生率の低下と平均寿命の伸びによるものと言われています。平均寿命については、平成28年簡易生命表では男性80.98歳、女性87.14歳であり、前年より男女ともに上回りました。なお、国別の平均寿命では、日本は男女とも世界でトップクラスです。また、女性の平均寿命は平成14年に初めて85歳を超えました。
少子化
合計特殊出生率(女性1人が一生のうちに出産する平均的な子供の数)は晩婚化や非婚化が進んだことから低下を続け、厚生労働省「平成28年人口動態統計月報年計(概数)の概況」平成29年6月発表によると、平成28年は1.44であり、人口の置換水準(それ以下になると人口減少を招く出生率の水準)の約2.07を大きく下回っています。
日本の年金制度は、現役世代が年金受給世代を支える「世代間扶養」の仕組みとなっているため、年金受給者が増加し、少子化により現役世代が減少すると、現役世代の保険料負担が重くなっていきます。そのため、将来世代の負担を過重なものとしないよう、年金制度の見直しが行われています。
社会保障給付費
日本の社会保障給付費は、「平成27年度社会保障費用統計(国立社会保障・人口問題研究所)」によると、平成27年度では約114.8兆円に達しています。
高齢化に伴い、社会保障給付費のうち、昭和55年を境に医療給付費よりも年金給付費が上回っています。
平成27年度は、医療給付費が37兆7,107億円(32.8%)に対し、年金給付費は54兆9,465億円で、社会保障給付費の47.8%を占めています。
高齢者世帯の所得
「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省年金局)」によると、平成28年度末の公的年金の受給者数(実受給権者数)は、4,010万人で、厚生年金保険(第1号)の老齢年金の受給者の平均年金月額は147,927円となっています。
また、「平成28年国民生活基礎調査」によると、平成27年の高齢者世帯の「公的年金、恩給」の割合が201万6,000円で、1世帯当たり平均所得金額の65.4%を占めています。
2.公的年金制度の主な沿革
昭和14年 | 船員保険法の制定(昭和15年施行) |
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昭和16年 | 労働者年金保険法の制定(昭和17年6月工業系事業所等の男子へ適用、昭和19年に厚生年金保険法に改称、昭和19年10月より一般職員及び女子への適用拡大) |
昭和36年 | 拠出制の国民年金により国民皆年金の実現 |
昭和41年 | 厚生年金基金の実施 |
昭和48年 | 物価スライド制、賃金再評価の導入 |
昭和60年 | 基礎年金制度の導入、第3号被保険者制度の創設(昭和61年実施) |
平成元年 | 完全自動物価スライド制の導入(平成2年実施)、国民年金基金の創設(平成3年実施)、20歳以上の学生の強制加入(平成3年実施) |
平成6年 | 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げ、可処分所得(ネット所得)スライドの導入、育児休業期間中の厚生年金保険の保険料(本人分)免除制度の創設 |
平成9年 | 基礎年金番号の実施、NTT・JR・JTの共済組合の年金部門が厚生年金保険に統合 |
平成12年 | 報酬比例部分相当の老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げ、国民年金保険料の学生納付特例制度の創設、育児休業期間中の厚生年金保険料(事業主分)の免除実施 |
平成14年 | 農林漁業団体職員共済組合が厚生年金保険に統合 |
平成15年 | 総報酬制の導入 |
平成16年 | 厚生年金保険料の引上げ開始 |
平成17年 | 国民年金保険料の引上げ開始、第3号被保険者の特例届出制度の創設、30歳未満の若者の保険料納付猶予制度の導入、育児休業中の保険料免除の対象を3歳未満に拡充、特別支給の老齢厚生年金の定額部分の月数上限の引上げ、年金課税の見直し |
平成18年 | 障害基礎年金と老齢厚生年金等の併給、国民年金保険料の4段階免除制度の導入 |
平成19年 | 65歳以後の老齢厚生年金の繰下げ制度の導入、70歳以上の被用者に在職老齢年金の適用開始、子のない30歳未満の妻の遺族厚生年金の見直し、中高齢寡婦加算の支給対象の見直し、離婚時の報酬比例部分の年金分割制度の導入 |
平成20年 | 第3号被保険者にかかわる厚生年金の分割制度の導入 |
平成21年 | ねんきん定期便の送付開始 |
平成22年 | 社会保険庁廃止、日本年金機構発足 |
平成23年 | ねんきんネットの開始 |
平成24年 | 適格退職年金制度廃止、年金機能強化法・被用者年金一元化法の公布 |
平成26年 | 産休期間中の保険料免除制度の開始、遺族基礎年金の支給対象が父子家庭へ拡大 |
平成27年 | 被用者年金制度の一元化、保険料納付機会の拡大 |
平成28年 | 短時間労働者に対する厚生年金保険・健康保険の拡大 |
平成29年 | 受給資格期間(10年)の短縮 |
3.公的年金制度の仕組み
公的年金とは、国が管理運営している年金です。国民年金の保険者は政府であり、国民年金からは被保険者等の老齢、障害、死亡について基礎年金が支給されます。厚生年金保険の保険者も政府で、被保険者等の老齢、障害、死亡について保険給付を行っています。
現在の公的年金制度は、20歳以上60歳未満の日本に居住する人すべてが加入する国民年金を基礎とした1階部分(基礎年金)に、上乗せの2階部分として厚生年金保険からの給付が支給される仕組みになっています。
公的年金は、国民年金と厚生年金保険に分かれており、厚生年金保険の実施機関は、厚生労働大臣(日本年金機構)、国家公務員共済組合・連合会、地方公務員共済組合等、日本私立学校振興・共済事業団となっています(平成27年10月改正)。
厚生年金保険の加入者は、国民年金にも同時に加入することになります。
現在の日本の公的年金制度は、国民すべてが強制加入である「国民皆年金」となっており、保険料を納めた人に給付を行う「社会保険方式」で運営されています。給付と負担については、「世代間扶養」の考え方がとられ、現役世代の保険料負担により高齢者世代を支える仕組みとなっています。
◆公的年金制度は、加齢などによる稼得能力の減退・喪失に備えるための社会保険。(防貧機能)
◆現役世代は全て国民年金の被保険者となり、高齢期となれば、基礎年金の給付を受ける。(1階部分)
◆民間サラリーマンや公務員等は、これに加え、厚生年金保険に加入し、基礎年金の上乗せとして報酬比
例年金の給付を受ける。(2階部分)
※1 被用者年金制度の一元化に伴い、平成27年10月1日から公務員および私学教職員も厚生年金に加入。また、共済年金の職域加算部分は廃止され、新たに年金払い退職給付が創設。
ただし、平成27年9月30日までの共済年金に加入していた期間分については、平成27年10月以後においても、加入期間に応じた職域加算部分を支給。
※2 第2号被保険者等とは、被用者年金被保険者のことをいう(第2号被保険者のほか、65歳以上で老齢、または、退職を支給事由とする年金給付の受給権を有する者を含む)。
4.年金の通則的事項
基礎年金番号
公的年金制度は、国民年金、厚生年金保険、各共済組合等に制度が分かれ、基礎年金制度導入後もそれぞれの制度ごとに加入者の年金番号が付されていました。この別々の年金番号による加入記録の管理方式を改め、各制度に共通の基礎年金番号を導入することになりました。「1人1番号」の基礎年金番号は、平成9年1月から実施されています。
年金手帳
20歳になって国民年金に加入したときや、20歳未満で初めて就職して厚生年金保険に加入したときなど、最初に被保険者となったときに、国民年金原簿に氏名と基礎年金番号が登録されます。被保険者には、基礎年金番号が記載された年金手帳が交付されます。
- 厚生年金保険被保険者証(上段写真)は、昭和29年5月~昭和49年10月に厚生年金に被保険者資格の取得手続きをおこなった方に発行されます。
- 茶色の手帳(下段写真左)は、昭和35年10月~昭和49年10月に国民年金の被保険者資格の取得手続をおこなった方に発行されます。手帳の色はおおむね5年ごとに更新されており、写真のような茶色以外にも、水色、肌色などがあります。
- オレンジ色の手帳(下段写真中央)は、昭和49年11月から平成8年12月までに被保険者資格の取得手続きをおこなった方に発行されます。
- 青色の手帳(下段写真右)は平成9年1月以降に被保険者資格の取得手続きをおこなった方に発行されます。なお、写真は発行者が「日本年金機構」の現在のものですが、平成9年1月から平成21年12月までに発行されたものは、この部分が「社会保険庁」となっています。
- 共済組合の加入期間しかない方には、「基礎年金番号通知書」(下図)が発行されています。基礎年金番号通知書は年金手帳の代わりになりますので、大切に保管してください。
ねんきん定期便とねんきんネット
平成21年4月より「ねんきん定期便」の送付が開始されました。毎年誕生月に、国民年金及び厚生年金保険の被保険者に送付されます。この通知は、年齢によって送付内容が異なり、年金加入期間、これまでの加入実績に応じた年金見込額(50歳未満の場合)、ねんきん定期便作成時点の加入条件で60歳まで加入したと仮定した場合の老齢年金見込額(50歳以上の場合)、これまでの保険料の納付額が記載されています。
また、35歳・45歳・59歳の節目年齢の人には、年金加入期間、加入実績に応じた年金額(50歳以上の人は、現制度に60歳まで加入したとして計算した年金見込額)、これまでの保険料納付額、年金加入履歴、厚生年金保険の期間の月ごとの標準報酬月額・標準賞与額・保険料納付額、国民年金の期間の月ごとの保険料納付状況などが記載されています。なお、35歳・45歳・59歳の節目年齢の人には封書、それ以外の人にはハガキ形式のねんきん定期便が送付されます。
また、平成23年2月から日本年金機構のホームページ上で年金記録や保険料納付状況などが確認できる「ねんきんネット」がスタートしています。平成28年4月発送分の「ねんきん定期便」から「ねんきんネット」の利用登録のためのアクセスキーは表示されず、代わりに基礎年金番号が表示されることになりました。